2014年1月26日日曜日

見通しをたてる

昨日はソロの発表会で演奏でした。

僕の出番は17時10分ごろなので、それまではアレクサンダーテクニーク教師養成の授業に出ることに。
いつもなら授業の中でレッスンを受けますが、本番当日ということもあり、僕自身が考えてきたプランもあるので、今日はレッスン受けなくていいやと決めていました。

お昼すぎから、急にソワソワし始めて、「ああ、緊張してきたなあ。」と思いながら午後の授業が始まりまして・・・
講師のユズル先生から、「今どんな感じですか?」と聞かれ、

『ソワソワしています。』と答えると、

「どこがソワソワしてますか?いつまでソワソワしているの?」とユズル先生。

どこがソワソワ?ソワソワをいつやめるかって?そんなこと考えたことありません。
それにソワソワをコントロールすることなんてできないじゃないか、と思いました。


僕は、『今はこのソワソワのまま、いたいです』と答えると、


「今、ソワソワでいたいんだね、そのあとは何をするの?」

『・・・・・・?』


・・・「見通しは立てた方がいいと思うんだ。」ユズルさんの質問は続きます。


「何時に、ここを出て会場に向かうの?」

『3時です。』

「ここから会場へどうやって向かう?」

『歩いていきます。』

「この建物からどうやって出る?」

『スタジオを出て、エレベーターでおりて・・・玄関から』

「会場までの道順は?」

『玄関を出て、右に曲がって・・・御堂筋沿いにしばらく歩いて、信号を渡って・・・・建物に入ったらエレベーターで・・・』
このとき僕はこの質問意図が全くわかりませんでした。わけもわからず質問に答えていきます。

「着いたら何をする?」

『まず客席に行って、ほかの人の演奏を聴きながら、どんな空間かよく見ておきたい。出番の1時間前になったら、下の階の控室で、音出しとリハーサルをして、出番の10分前にはエレベーターで会場に戻り、前の人の演奏が終わり拍手が聞こえて舞台から降りて来られたら、僕は舞台の上に行き、譜面を置いて、おじぎをして、お客さんの顔を見て、それから伴奏者にアイコンタクトを送り、演奏を始めます。』

「それで、演奏がはじまったら?どんな音楽なの?」

『えっと・・・2小節の前奏を聴いてから演奏を始めます。最初は憂鬱な響きのするバラードで、・・・かっこいいカデンツァがあって、テンポが速くなる部分はピアノもトロンボーンも軽やかで楽しくて・・・最後はたたみかけるように終わりたい・・・』
うまく言葉にできないながらなんとか話し終えました。

そこでユズルさん、「今、どんな感じがする?」と初めの質問に。


・・・漠然としたソワソワや不安がすっかり吹き飛んでいました。
これから、演奏までの見通しを詳しく言葉にすることによって、安心できました。


最後にユズルさんから、こんな質問。《見通し》の続き。
「演奏を終えた後、どんな気分になりたい?」

『・・・わかりません』と答える。

「いい気分になりたくない?」

 
『いやな気分になるかもしれない』

「今質問しているのは、どうなるかの予想ではなくて、どうなりたいか。それは自分で決めていいんだよ。」

なぜだか、考えたこともなかったというか、いつも根っこには悪いイメージがこびりついていたんだと思います。「演奏が失敗して、落ち込んでいる自分、気分も最悪」なイメージや予想ばかりしてしまうのです。

それを話すと、
ユズルさんは、「それも、習慣なんだ」とニコッとしながら言ってくださいました。


達成感、やりきったぞという気分になりたいと、ふと思いました。


最後にどんな気分になりたいか?
実際にはどんな気分になっているかわかりません。
けれど僕ははじめから「気分が落ち込む」イメージを持っていたために、知らず知らずのうちにそういう結果に自ら向かっていたのかもしれません。
「どうなりたいか」を考えることにより、積極的に「演奏」に臨むことができました。






本番まで、この『見通しをたてる』を何度か繰り返しました。
もちろん現実は見通し通りに進むわけではありませんが、あらかじめ考えて置くことでいくつも役に立つことがありました。

演奏前、ほかの人の演奏を聴く、と決めたこと
ぼくはどちらかというと本番前、人の演奏を聴きたくありません。でもほぼ絶対に聞こえてきます。
控室から漏れる演奏、会場から・モニターから聞こえる演奏、ステージ袖で聞こえる演奏。
聞かないでいる方が難しいと思います。
普段なら、「聞きたくないけど、聞こえちゃう!みんなうまいなあ!どうしよう!!」とかってなるんですが、あらかじめ聞くと決めておくことで、以外にも人の演奏を楽しんで聞くことができました。


ステージに出たら、おじぎして拍手を頂く、それからお客さんの顔を見る、と決めたこと
拍手を聞くと、どう反応してよいかわからなくなったり、拍手が止んで演奏が始まるまでの時間も、いつも僕はふわふわして居心地の悪い時間を過ごしていました。
ステージにでてから、演奏が始まるまでの見通しをたてておくことで、気持は演奏に向かい続けることができました。


これから演奏する音楽の見通しを、考えて言葉にしたこと。』
自分が一番好きなフレーズや一番の聞かせどころ、各部分のキャラクター、ストーリー。たぶん言葉では表現しつくせないけれど、言葉にしてみる。
正しさも、センスの良さも必要なく、自分の持っているイメージを、自分の持っている言葉の中から選んで表現する。僕の想像では、これは「その時、自分にできることを選択する」力になると思う。
本番中も、どう演奏したいか、より鮮明に思うことができました。



当初は、レッスン受けないぞと思っていましたが、結果的にユズルさんのレッスンで多くのことを学ぶことができました。
本番も、何度か手や口が震え、「あがり」に呑まれそうになりましたが、最後まで自分の音楽と向き合い演奏し続けることができました。



森岡 尚之 / モリオカ ナオユキ
トロンボーン&金管トレーナー/アレクサンダーテクニーク教師養成コース在籍
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2014年1月23日木曜日

『今ここ』は安全。

今読んでいるThe Artist'wayという本の中に、
「私が今いるこの瞬間は、つねに、私にとって唯一、安全な場所だった。その瞬間瞬間は必ず耐えられた。」という文章があって、それがなんだかとても印象的でした。


アレクサンダーテクニークを学ぶ中でも『今ここにいる』という言葉をよく聞きます。
けれど僕はその意味がいまいちよくわからないでいます。
『今ここにいる』ってなんて当たり前なことを言うんだろう。それとも極めた者がやっと辿り着ける悟りの境地なのか・・・いつもあれこれ考えては、よくわからないままなんです。


でも、最近自分が、ほとんどの時間『今ここにいないこと』に気がついたんです。
特に演奏中の自分は、『今ここにいない』ことが多い。
「心ここにあらず」といった感じですね。
では、いつどこにいるのかというと、たぶん未来と過去をいったりきたりしているんだと思います。
どういうことかというと、先に待ちかまえていることや、済んだことにばかり気をとられているんです。


未来と過去のことを考えるのは、危険というか、不安で怖いことが多いです。
例えば、
・次のハイトーンはずれたらどうしよう?
・息がもつかどうか
・スタミナ最後まで持つかなあ
・失敗したり、演奏が止まってしまったらどうしよう
・信頼を失ってしまわないだろうか
・仕事がこなくなったらどうしよう
(これらは未来のこと。不安で仕方ありません・・・!)

・ウォームアップが不十分だったかもしれない
・十分なブレスがとれたかどうか
・リハーサルで吹きすぎたかも・・・
・音を外してしまった
・アンサンブルが乱れてしまった
・さっきの失敗は、どう思われているだろう
(過去のことは未来の不安につながっていくように思います)


これらのことに気をとられていると、居心地が悪く不快で、自分の実力を発揮できません。
未来の不安や、過去の失敗に目を向けていると、演奏している時間がとても怖くなって体が固まってしまいます。
あがり症になったころから、このような体験を何度も繰り返してきました。



『今、この瞬間に注意を向ける』
それは今この瞬間に見えるもの、聞こえる音、自分自身に気づくことなのかなあ、と思います。
確かにそこには、今一番必要で、確かな情報がある。
演奏前にハプニングが起こったとしても、どこかで失敗するかもしれなくても、その瞬間瞬間を演奏することはできる。だから『今ここ』は一番安全。

まだまだ考えはまとまらないけど、そんな風に考えながら、今度の本番に臨んでみたいと思います。


森岡 尚之 / モリオカ ナオユキ
トロンボーン&金管トレーナー/アレクサンダーテクニーク教師養成コース在籍
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2014年1月10日金曜日

演奏中の脚を動けるように。



今日は2014年一発目のボディシンキングのクラスでした。
今日のテーマは股関節。

ボディシンキングのクラスは一年かけて頭と軸(脊椎)から始まり、発声と呼吸、腕・手、脚・足について学びます。
ちょうど今は脚について学んでいるところ。

というわけで、今日のクラスでは、トロンボーンを演奏する時の脚の動きをみてもらいました。

前々から、演奏中ひざがつっぱって脚全体を不要に固めている自覚はあったのですが、どうすれば余分な力をゆるめることができるのかわからないでいました。


演奏しているところを見てもらうと、『体重を脚の内側同士で支えているのではないか』というフィードバックを頂きました。

体重は脊椎の前側である脊柱を伝わり、骨盤から両脚の骨に伝わっているのですが、脚の内側で支えようとしていたことで重さが効率良く伝わらず、結果的に関節を固めることで頑張って支えていたのかもしれません。

ひざがつっぱったり、股関節・脚全体を固めていたのには、そうせざるを得ない理由があったんですね。『固まっている』という《症状》自体をどうにかしようとしていたけれど、それを引き起こす《原因》にカギがあるようです。

そこで『体重は脊柱を伝わり、骨盤から両脚の骨に分かれて、脚の外側を伝わっていく』と想像してみると、固めていた股関節もひざも緩んで自由になりました。


今までは、自分の身体を支えるために関節を固めて、筋肉が頑張っている感覚でしたが、骨格が身体を支えてくれているという、安心感が得られました。


今回レッスンで脚についてみてもらったのは、演奏と脚の動きがどう関わっているのかという単なる好奇心からだったのですが、股関節とひざが緩むと、呼吸がとてもラクに、しやすくなりました。


さらに詳しく探求していきたいテーマです。
ひとまず今日は、脚を動けるようにするプランが見つかり、よかったです(^^)


森岡 尚之 / モリオカ ナオユキ
トロンボーン&金管トレーナー/アレクサンダーテクニーク教師養成コース在籍
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2014年1月5日日曜日

クレッシェンドのテクニック

私たちは音楽を演奏するために様々なテクニックを、演奏体験や練習を繰り返して身につけています。例えば演奏中にクレッシェンドしたいと思えば、ほとんどの人が難なくできると思います。

頭の中で鳴っている音に従っているだけで、もしくはクレッシェンドしよう、音楽を盛り上げよう、音を大きくしよう、そう思うだけでクレシェンドという表現をごく自然に行えているのです。
クレッシェンド=だんだん強く、大きく・・・つまり音を大きくするためにはああして、こうして・・・なんて演奏中考えていませんよね。考える暇もありません。

音をだんだん強く/大きくしていく方法をすでに身につけていて、演奏中に瞬時にその方法を選択し、実行しているのだと思います。


しかし、必ずしも「やりたいと思っている表現」と「実際の演奏」が一致することばかりではありません。


そこで、
・理想のクレッシェンドを表現するために、
・クレッシェンドを効率よく行うために、
・よりラクに行うために、
音を大きくしていくための方法を知っておくことは、とっても役に立ちます。

私たちが普段意識しなくともできているクレッシェンド、実際にはどんなことをしているのでしょう?

◆息と口の連携プレイ!

チューニングB♭でもFでもなんの音でも構いませんので、ある音をロングトーンします。
口・唇はいっさい変えずに、息の量をだんだん増やしてください。

どんなことが起こりますか?
口・唇をいっさい変えずに、息だけ増やしていけば、音程がだんだん高くなり、やがて上の音にひっくりかえります。


次は、先ほどと同じ音で、ロングトーンします。
今度は、息の量はいっさい変えず同じ量で、口・唇をだんだん緩めてください。

今度はだんだん音程が下がって、さらに続けると下の音に変わります。


では、この二つを組み合わせます。
ある音をロングトーンします。
息を増やしながら、口をだんだんゆるめてみてください。
うまく連携できるとクレッシェンドになると思います。


ただ息を増やしていくだけでは、音程が高くなっていきます。
同じ音程を維持し、音を大きくしていくために、息の量を増やしていきつつ、それに連携して口・唇は緩んでいきます。
特に口を緩めているというのは、普段意識しないことかもしれませんね。
クレッシェンドするときに、音が思うように大きくならなかったり、力んだ音や響きが損なわれてしまう場合は、「口を緩める」ことを意識すると、きれいにクレッシェンドできます。


こうした仕組みや、やり方を理解していることで、
・より効率的になる
・表現の幅や種類を広げることができる
・よりラクになる
・生徒や後輩の指導で役に立つ
などメリットがあります。
試してみてください♪



森岡 尚之 / モリオカ ナオユキ
トロンボーン&金管トレーナー/アレクサンダーテクニーク教師養成コース在籍
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