2014年3月30日日曜日

背中を「まっすぐ」にしなくてもいい

3月、海外から日本へトミートンプソンという素敵なアレクサンダーテクニークの先生がいらっしゃいました。
レッスンで、トロンボーンを演奏しました。
すると、トミーから一言。
「君はまるで演奏する前から、今日の演奏がどんなものになるか知っているように見えたよ。」

たしかに、レッスンでは、みんなが見てる前で、一人演奏するから緊張していました。
緊張すると、いつもこんな演奏になるんだよなー。と吹く前から考えていました。

「楽器を構えるときにね、演奏がこうなるに違いないという感覚を持たないでほしいんだ。あたかも初めてその楽器を手にしたときのように。これからどんな音が聞こえるのか、決めつけないで演奏してみて。」

とても吹きやすくなりました。体が楽で、息が吐きやすくて、音程がクリアに、そして響きも増えました。
たったこれだけのことで、どうしてこんなに変わるの!?
トミーとのレッスンで何が起こったのか・・・わかったような、わからないような・・・

トミーは、演奏に対する「思い込み・先入観・習慣」を持たないでいることを
「定義を保留する」と言っていました。


レッスンを受けてから、数日間、一人で練習するときにもトミーから教わったことを考えながら、練習しました。
が!レッスンのようにうまくいかず、ちょっと吹くと背中が痛くなってくるのです。
どうしてだろう?


無意識のうちに、定義を保留することができれば、体は楽になり音もよくなるはずだ!という新しい定義をつくっていたのです笑
そこで、改めて、「こうなるに違いないという感覚を持たずに、これからこの楽器からどんな音が聞こえてくるだろう。良いとも悪いとも限らない。」と思うと、
トミーとのレッスンのときには、気付かなかったことが起こりました。

背中のつっぱりがふっと緩んで、胴体がとても楽になったのです。
そのまま演奏してみると、さっきまでの不調がうそのように、気持のいい響きが聞こえました。


そうか。自分の持っている定義(習慣的な考えや先入観)が、自分の体の使い方に影響を与えているのかも!


それから、気持よく吹けたり、背中が痛くなったりを一週間ほど繰り返していました。
演奏するとき、無意識のうちに背中を突っ張らせて、それが背中痛を引き起こしたり、演奏の邪魔になっていることはわかったのですが、その背中を突っ張るという動き自体、いつからやっているんだろう??観察してみます。

楽器を演奏しはじめたとき?
楽器を構えるとき?
楽器を手に持ったとき?

にはすでにやっているな~・・・

じゃあ、楽譜を用意しているとき?
譜面台を組み立てている時?
楽器をケースから出している時?

このあたりから、すでに姿勢を意識して背中をまっすぐにしようとしてるかも・・・
でも一番最初に変化が起こるのは・・・

部屋に入って、「さーこれから吹くぞ」と思ったときでした・・・!たしかに背中が少し動いて、いわゆる「気をつけ!」の姿勢をやろうとしていたのです。


いい演奏をする→背中はまっすぐ、正しい姿勢で!という、自分の定義が見つかりました!そして
その「演奏モード」は、実際に楽器を演奏している時よりもっと前の、部屋に入るときや、「演奏」のことを考えたときにすでに始まっていることがわかりました!

じゃぁ、これからは、その定義を保留して、「別に背中をまっすぐにしなくても演奏できるんだぞ~。背骨はもともとカーブしてるんだぞ~」と改めて自分に教えながら演奏すればいい。

そうすることで、音は以前より豊かになったし、背中の痛みもほとんどなくなりました。

ひきつづき観察していくと、「演奏モード」(気をつけの姿勢)の度合や始まるタイミングは、僕の場合シチュエーションによって違うことがわかってきました。

たとえば本番の日は、朝起きて朝食を食べているときから、「演奏モード」になっていたり。
人前で演奏するときは、「演奏モード」の度合を強くしようとしてたり。
フォルテや、ハイトーン、テンポの速い難しい曲のときにも「演奏モード」が強くなったり。

この、自分の習慣的な動きが、いつのタイミングで始まるのか、気づくと新しいプランが使いやすくなります。


僕にとっては、以前採用していた演奏モード=気をつけの姿勢は、背中痛を引き起こし、体を固めて逆に演奏しづらくなるように作用していました。
トミーの「定義を保留する」という考えは、とても役に立っています。






森岡 尚之 / モリオカ ナオユキ
トロンボーン&金管トレーナー/アレクサンダーテクニーク教師養成コース在籍
プロフィール
アレクサンダーテクニークとの出会い

レッスンのご依頼について

2014年3月13日木曜日

ピッチを含む、『音』全体でチューニング!



先日、母校の吹奏楽部へお邪魔し、合奏で指揮をさせてもらいました。
時間よりも早く着いたので、合奏前のチューニングから参加することに。

せっかく演奏会で指揮をさせてもらうのだから、一人一人の音を聞いてみたいし、なにか一言二言話してみたかったので、各楽器ごとにB♭の音を吹いてもらいました。

サックスパートにB♭の音を吹いてもらっている時に、なんだかあとちょっとで合いそうなのになかなか音が合わないんです。
どうしたらいいかなあ…と思い、生徒に、

『チューニングって何をすることかなあ?』と聞いたら、

「音程(ピッチ)を合わせることです」

うん、違いない!と思います。
でも聞こえているのは、ピッチだけ??

音程は、その音を構成する一つの要素にすぎないのでは?
つまり、聞こえているのはピッチだけではなく、音色や響きや音量などを全て含んだ『音』なんです。

なのにチューニングになると、『音程』という1要素を強烈に意識するからか、音色や大きさ、響きなどの他の要素を一切シャットダウンし、音程のみにフォーカスしようとしてしまうのかもしれません。
もちろん私達はふだん『音』全体を聞いているのだし、『音程』だけを聞くのは現実的に無理なのではと思います。


そこで、
『隣から聞こえる音は、どんな音程・音色・響き・大きさだろう??音程を含めた音全体を聞きながら吹いてみよう。』

と提案してみると、すぐに変化が出ました!
音程は合ったし、一人一人の音の方向性がはっきりとして、サックスパートのサウンドの存在感がぐんと増えました!

さらに、全体を見ていくと、
隣から聞こえてくるその音を、奏でているのは誰?
今日はどんな髪型をしてる?
どんな服装だろう?
今日はどんな部屋で吹いているんだろう?

なぜここまで含めるのかというと、合わせようとしている『音』は目に見えないからです!
目の仕事は『音』を見ることではなく、楽譜や指揮や客席、目の前の景色、一緒に演奏する共演者達を見ることだと思うんです(^^)


その場の思いつきのアイデアでしたが、おもしろい体験になりました。
僕自身も、学生のころ、今思えば『音程』だけにフォーカスしていたと思います。
それにしても、学生時代、チューニングのピリピリと張り詰めた時間がなんとも苦手だったなあと、しみじみ思いました笑



森岡 尚之 / モリオカ ナオユキ
トロンボーン&金管トレーナー/アレクサンダーテクニーク教師養成コース在籍
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