2014年4月22日火曜日

あがり症がだんだんよくなってきた②

先日のブログ(こちら)にも書きましたが、長年苦しみ続けた「あがり症」が、時間をかけてゆっくりとよくなっています。

「よくなった」というのは、あがらなくなる、緊張しなくなる、ということではありません。今でも本番ではとてもあがります。けれど、緊張しながら、自分の実力を発揮できたり・その場の演奏を楽しめるようになってきているのです。
アレクサンダーテクニークを学ぶ過程で、何があがり症の役に立っているのか、すこしずつ整理していこうと思います。


あがりがひどかったころ、こんなことに困っていました。

「本番になると、いつもと全然違う感覚になり、これで演奏できるのかと不安になって頭が真っ白になってしまう。」

いつもと同じ感覚・感じで演奏しようとしても、舞台に立つと、自分の身体の感覚・楽器を持つ手の感覚・マウスピースが唇に触れる感覚・聞こえ方などがガラリと変わって、音の出し方さえわからなくなってしまうことがありました。
このため、当時はいくら練習しても、本番では感覚が変わり頭が真っ白になって吹けなくなるんだ・・・という怖さをいつも感じていました。



さて、本番になると感覚が変わるのはなぜでしょうか?
これは、アドレナリンによる作用が関係しているそうです。
体内でアドレナリンが分泌されると、心拍数や血圧があがり、興奮状態・体が活性化した状態になります。この状態が、いわゆる緊張とよばれているものですね。
このアドレナリンは、感覚器官の感度をあげる作用もあるそうです。



つまり普段よりも敏感に、感覚から受け取る情報が増えるのですね。
なので本番になって、普段は気付かない、または気にしていないことにも、気づきやすくなっています。
アドレナリンは、これから行う演奏で、自分の能力を最大限発揮できるよう、体を活性化させる役割を果たしてくれています。なので本番前の緊張(どきどきやそわそわ)・いつもと違う感覚になることは自然なことですし、望ましいことでもあります。



以前の僕は、本番の時、
「いつもと感覚が違う」=「おかしい・調子が悪い・間違っている」と考えていました。

ですが、アドレナリンの作用で感覚器官の感度が高くなっているのであれば、
いつもと同じことをしていても、受け取る感覚は違ってきます。
つまり、「感覚」によって「正しい・いつもの調子」か「おかしい・調子が悪い」かを判断することは、あてにならないことがあるのです。


このことは、僕がこれまで本番で、練習のときと同じ感覚を再現しようとしていたことと、それが実際には役に立っていないことを教えてくれました。
そして、演奏しているときの「感覚」ではなく、演奏するために行っている「やり方」や、音を出すための「吹き方」に注目してみることにしました。


・自分は、自分の体をどんな風に使って演奏しているのだろう?


例「左手でトロンボーンを持ちあげて、マウスピースを口にくっつけて、口を閉じて、息を吐く。」


とてもシンプルで、当り前のことですが、こんな風に「楽器を吹く」という行為を、具体的な動作として考えてみることで、それまでの奏法に対する混乱した考えから解放されて、音を出すために必要なことを、改めて理解していくことができました。
逆にこのシンプルな動作を理解すると、実際には、身体が色々な複雑な動作をしているらしいことがわかるようになってきました。
考えはじめた頃は、練習でもまともに音がでなくなっていたので、「これだけで音がでるんだ・・・!」
とあっけにとられたことを覚えています。




・何をすれば出したい音・吹きたいフレーズが吹けるだろう?


上に書いた動作だけでは、ひとつの音を奏でることはできても、曲を演奏することはできません。
出したい音域によって、何をすればいいのか、音程を変えるために何をしているだろう、リズムを演奏するためにどこが動くだろうか?
こんな風に考えることは新鮮でした。考えなくてもこれまで演奏できていたし、あまりにも「当たり前」に感じることだったからです。それに、今まで「できない原因・うまくいってないところ」を探すのには慣れていましたが、「何をすれば」と考えることはあまりなかったように思います。


「(イメージしている)この音を出すために、マウスピースを口にくっつけて、スライドをここまで動かして、こう息を吐く。」など

こうして曲を演奏するための、その音ひとつひとつの出し方・基礎的な技術を確認し、繰り返し練習していくと、本番の緊張状態の中でも、音の出し方を理解しているので、感覚の違いに混乱することは減り、結果的に音楽に集中しやすくなりました。




森岡 尚之 / モリオカ ナオユキ
トロンボーン&金管トレーナー/アレクサンダーテクニーク教師養成コース在籍
プロフィール
アレクサンダーテクニークとの出会い

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2014年4月14日月曜日

あがり症がだんだんよくなってきた。

「あがり症がだんだんよくなってきた。」

大阪音楽大学トロンボーン専攻を卒業し、現在Bodychanceアレクサンダーテクニーク教師養成コースに在籍している森岡尚之です。
僕は、高校生の頃に初めて「あがり」を経験し、音大に入学してからの4年間、練習を重ねても本番では「あがって」しまい自分の実力を出し切れず悔しい思いや、みじめな思いをしてきました。
さらに、「あがって」いるときの自分のボロボロの演奏が、自分の実力だと思い込んでいました。
そのために、普段から自分の演奏に対して、かなり否定的になっていました。
自分を精神的にも、肉体的にも痛めつけるような練習を繰り返し、本番ではあがってしまい普段できていることの半分も出せない本番も多々・・・そんな悪循環は、「もう楽器をやめたい」と本気で考えるまで自分を追いつめていました。

 

ここまで悩んでいながら、他人に相談することはありませんでした・・・
「あがり症」に対してネガティブなイメージを持っていたので受け入れることができなかったのです。

・音大生なのに「あがり症」なんて・・・
・「あがり症」=本番で必ず失敗する=使えないヤツ

こんな考えが先行してしまい、先輩にも先生にも、同級生にも親にも相談できませんでした。
相談したら相談したで、「君には向いていないんだよ」と引導を渡されそうで怖かったのかもしれません。



しかし、大学四年間の集大成といえる卒業試験で、ちっとも納得のいく演奏ができなかった僕は自ら「音楽をやめよう」と思いました。
けれど、こんな状態だけれど、音楽が好きで、続けていきたいという気持ちは残っていました。
そんなとき、ある怖い疑念が浮かびました。
「たとえプロを目指すことをやめて、趣味で音楽を続けていきたくても、あがり症である限り、音楽を楽しむことはもうできないかもしれない・・・」



なんとか音楽を続けていける道をさがしてみよう!「やめる」代わりに、少し休もう。
休みながらでいいから、楽器と、自分と向き合おう。
その年に、出会ったのが「アレクサンダーテクニーク」。
ホルン奏者で、アレクサンダーテクニーク教師の資格を持つバジルクリッツァーさんのブログを読んだのがきっかけでした。
自分が探していた「あがり症を克服する方法」が見つかるかもしれない、わずかですが可能性が見えてきた感じがしました。



アレクサンダーテクニークを学びはじめ、その中で大きな発見がありました。

これまで僕は、人からどう評価されるかが、怖くて怖くてたまりませんでした。
・もし、本番で失敗してしまったら、周りからの信用を失って、もう出演の誘いは来なくなる。
・せっかく聴きにきてくれた友人はがっかりしてしまう。
・「あがり症」だと思われたら、音楽家として終わりだ(?)


しかし、実際には、
・本番で失敗してしまったとしても、同じ演奏会の出演の誘いは頂いたことがある。確かに誘いが来なくなる可能性はあるかもしれないけど、全てがそうではなかった。
また、他の人も同様に、失敗をしても再びチャンスをつかんでいる。
・聴きに来てくれた友人は、自分が気にしていた失敗よりも、ほかの部分を評価してくれていたことがある。
・自分の身近な魅力的な演奏家で「あがる」人は多い。有名な奏者でも「あがる」人はいるという話を聞いた。


つまりこれは、自分が本番前にそう思いこんでいることが、100%本当ではないということ。
ではなぜ、これらのことを、絶対だと信じ込んでいたのだろう。
その裏に根ざしていたものは、
・もし、本番で失敗してしまったら、「僕は」自分を信用しない。「自分は本番で失敗するから、依頼を引き受けるべきじゃない」と自分に囁くだろう。
・失敗したら、「僕は」自分にがっかりする。
・僕が「あがり症」だと認めてしまったら、もう終わりだ
という「自分の自分に対する評価」が原因だったのです。


この事実を知ったとき、大変ショックを受けました。
ショックでなのか、気づくことができてなのかわかりませんが、泣きました。
自分にこんな評価を下していたことも、それを他人のせいにしていたことも辛くなりました。
実際にあがりがひどかったころ、人間関係にも支障をきたしていたのです。


ですが、ひとつだけはっきりとした「希望」を見つけました。それは、
他人からの評価なら、変えることはできないけれど、自分が自分にしている評価なら変えることはできるのではないか!と思ったのです。


そうはいっても、現時点で自分に信用がなく、自分の演奏も大嫌いだったので、変わるには少し時間がかかりました。
本番であがる大きな原因としてあげられるのは、自分の実力を過小評価したり、実力以上のことをやろうとしていたことでした。


そこで最初にしたことは、「今の自分にできることとできないことを知る」ということ。
ただできるという事実とできないという事実を知るだけ。
できているという事実を否定しなくてもいいし、できないことを非難しなくたっていい。
これは、練習の効率を上げるのにも役立っています。
これをすることで、自分の今の技量に信頼を持て、その信頼は直接本番に繋がるようになりました。


僕の場合、「他人からの評価」ではなく、「自分からの評価」が演奏する自分に大きなストレスと、緊張を引き起こしているのだと知ったおかげで、自分自身が自分のやりたいことに協力的になれるように考えたいと思えるようになりました。
「あがり」とは、これからも長く付き合っていくだろうし、緊張しないことはないと思うけど、自分に協力的でいることで、緊張しながらでも、本番で自分の力を出せるようになってきました。

「健やかにトロンボーンを吹く」という目標を掲げて、約一年。
ほんと、健やかになってきています♪






森岡 尚之 / モリオカ ナオユキ
トロンボーン&金管トレーナー/アレクサンダーテクニーク教師養成コース在籍
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