2013年12月26日木曜日

音を支えているのは、体の「動き」

吹奏楽や管楽器指導のなかで「音を支える」という表現をよく耳にします。
一定の音色・音量・音程・響きを保持するために「支える」という表現が使われているように思います。


「支える」という言葉にどんなイメージを持ちますか?
僕は、建物の土台とか、「がっちりした・固定的な・動かない」ものを連想します。
「支える」という表現は、イメージとしてわかりやすい反面、「固定的で動かない土台」というイメージを奏法に持ち込んでしまう可能性もあると思います。


「音を支えること」ができているかどうか、どのように判断しますか?
僕の解釈ですが、上に書いたように、一定の音色・音量・音程・響きが保持されていれば、安定した「支えられた音」と認識できると思います。
つまり、判断基準は「音」で、「支えようとしている」体の感覚ではありません。

音を支えるために、
おなかに力を入れて、固めようとしていませんか?
・脚が固まっていませんか?
・アンブシュアと楽器の関係がぶれないために、頭や首を固めていませんか?
・体が動かないように、と思っていませんか?

これらのことは、「音を支えようと体が頑張っている感覚」は得ることができますが、音を支えるためには、必要ありません。
このやり方で、音を支えられているとしても、音色や響き、演奏の自由度、音量の幅は制限されている可能性が高いです。


では、「音を支える」にはどうすればいいのでしょう。






バランスをとるために体は動いている
私たちがバランスよく立っていられるのは、体が微細に動き続け調整してくれているからだそうです。
・試しに立って両手を前にのばしてみてください。そして腕をふりまわしたりいろいろな方向に動かしてみてください。
別に不思議なことではありませんが、バランスを崩すことなくそのまま立っていられますよね。日常生活の中でも私たちはいろいろな動きや姿勢になりますが、特に何か意識しなくたって立っていられます。

・今度は脚を固めて(膝を張り、股関節・足首をロックする感じで)、両手を前にのばし、腕をふりまわしたり、いろいろな方向に動かしてみてください。
手を前にのばしたとき、体がほんの少し前に傾きませんか?腕を動かし始めると、さっきよりも足下が不安定になりませんか?
本当に微動だにしない「物」であれば、手が前に出るとそのまま前方向に傾いて倒れますよね。

私たちは無意識に起きている微細な動きによってバランスをとり、自分の体を支えています。
支えるために「固定しよう」とすると、体はその指令に従い、逆にバランスが取りづらく支えにくくなるんです。
演奏する時も普段立っている時も脚を固めることは必要ありません。むしろ自由に動ける方が、より思い切った表現をするときにも、対応しバランスを取って支えてくれます。





音を支える息について。
管楽器で音を出すためには、息を吐くことが必要ですね。
管楽器演奏の場合、息を吐く量は普段の呼吸よりも多くなるので、腹筋や骨盤底筋が働きます。
一定の音量で保つ(音を支える)ためには、一定の量の息を吐き続けることになります。
息を吐くときの腹筋の役割は、吸った時に横隔膜の働きで押し下げられた内臓を、上に押し戻すことです。
その時、腹筋を固定して支えようとすると、息を吐くという動きを止めてしまいます。
腹筋が動き続けるから、一定の量の息を吐き続けることができるんです
そして息を吐き続けることで音は支えられています。




アンブシュアとマウスピースの関係も、曲を演奏していれば変化し続けます。
必要なのは、音を奏でている間、密着し続けていることです。
唇と楽器をその場所に固定させることではありません。
演奏中に、自然に起こる頭や顎・アンブシュアの動きの変化に合わせて、唇とマウスピースを密着させ続けていたい、そのために楽器を持つ手・腕が唇方向にマウスピースをくっつけ続けます。

今説明した以外にも、たくさんの動きによって演奏が成り立っています。
それらの動きが音を支えています。




なので音を支えるために
頭と首は固めてなくていい、動けるようにしてあげよう。
・体も固めてなくていい、動けるようにしてあげよう。
・脚は、微細にバランスをとれるよう動けるようにしてあげよう。
・息を吐き続けよう、そのために腹筋は動いているんだ


そして、好きなだけ動いていいんだ
と思って演奏してみてください。



森岡 尚之 / モリオカ ナオユキ
トロンボーン&金管トレーナー/アレクサンダーテクニーク教師養成コース在籍
プロフィール
アレクサンダーテクニークとの出会い

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2013年12月10日火曜日

楽器の構えを、ラクに

僕は楽器を吹き続けていると、楽器を持っている手に力が入って疲れたり痛くなることがよくあります。また、学校の吹奏楽部などへ指導へ行くと、同様の悩みを持っていたり、無意識のうちに楽器を強くぎゅっと握っている生徒さんをよく見かけます。


楽器を持つためにどれくらいの力加減で持っているか、考えたことはありますか?
手や腕に力が入りすぎているという実感を持っている方は少なくないかもしれません。
楽器を持ち上げて、歌口(マウスピース)を口に持ってくるという動きは、演奏するために必要不可欠な動きです。
つまりブレスやアンブシュア、タンギングについて考えるのと同じくらい、考える価値のあることだと思うんです!



楽器をどれくらいの力で持つか考えてみる


手元にペンや紙(落としても大丈夫なもの)があれば試してみてください。

①片手でそれを持ちます。
②そして、それが手を離れて(机か床、もしくはもう片方の手のひら)に落ちるまで、ゆっくりと持っている手を緩めていってください。
③持っていたものが落ちたら、また同じほうの手でそれを持ちます。
④今度は、それが手を離れて落ちる手前まで、ゆっくりと持っている手を緩めてください。

落ちる手前までなので、今度は落ちませんね。
ということは、最初よりも手を緩めていても、それを持ち続けられるのです。
「持つ」ための力加減に自由な選択肢があることがわかりました。

さて、では楽器をどうやって持ちましょう。
必要な条件としては、楽器が手を離れて落ちなければ十分だと考えます。
楽器を手に取り、手をおろした状態でその楽器の重さを感じて見ましょう。

私たちは物を持つとき、無意識に持つ前から、持つために必要な力を推測し準備しています。
人のかばんや、中身のわからないダンボールが思いのほか重くて(軽くて)びっくりした経験はありませんか?それは、そのものの見た目や自分の経験から勝手に重さを推測しているからです。
普段から手にしている楽器ならなおさら習慣的に、持つための力を準備しています。

けれど力は必要になるときに、必要な分使えばいいのです。
持つ前から、持つために力を入れる必要はありません。

なので、まず楽器の重さを感じて、それを持ち続けるために必要な力で持ってみてください。
(楽器が手を離れ、床に落ちなければOKです!)
思いのほか力を使ってないという感覚があるかもしれません!


そして自分の口まで持ってくるのは、腕の動き

手で楽器をもつところまで説明しました。次は楽器の歌口(マウスピース)を自分の口まで持ってくるという、「楽器を持ち上げる」動きについて。

楽器を持ち上げるとき、肘(ひじ)が大活躍します!!
実はこの肘、案外忘れがちになることが多いようです。
手をおろしているところから、肘だけを折りたたむように曲げてみるとそれだけで胸のあたりまで手が届きます。楽器を口まで持ってくるという仕事の大部分を担っています。
もちろん楽器を持ち上げ、マウスピースを口まで持ってくるには、腕全体が動きます。
ちなみに腕全体というのは、鎖骨・肩甲骨も含まれます。なので肩のあたりも動きますよ!

なので楽器の歌口(マウスピース)を口まで持ってくるために、
手は必要な力(楽器を落とさない程度)で楽器を持ち続けていて、
マウスピースが口に向かうために肘が曲がって腕全体のサポートがあって、
マウスピースが自分の口までやってくるんです。そしてそのおかげで音を出すことができます。

↑少し変わった言い回しに聞こえるかも知れませんが、あえて楽器を持ち上げる目的と動きの順番を明確にしています。



最後に補足として強調したいポイントは、
自分の口マウスピース持ってくるということです。
楽器を構える過程で、自分の顔を楽器のほうにやっているかもしれません。
すると顔(頭)が楽器にのしかかることになり、その重さは自分の手・腕で受け止めることになります。これは手や腕にかなり負担がかかります。持っている楽器にさらに重さが加わるので、手に力が入る(ぎゅっと強くにぎる)原因にもなりやすいです。
なので、自分の口マウスピース持ってきましょう。それがさきほど説明した腕の仕事なんですね。


それでも長時間演奏を続けていると、疲れてくるのは自然なことです。
そのときはしっかり休みましょう。演奏中でも、こまめに楽器を降ろして、腕を休ませましょうね!






森岡 尚之 / モリオカ ナオユキ
トロンボーン&金管トレーナー/アレクサンダーテクニーク教師養成コース在籍
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2013年12月1日日曜日

練習の評価の仕方

楽器の練習をしている時、自分の演奏をどんなふうに評価していますか?

以前の僕は、「結果」のみを基準に評価していました。
音が外れた⇒「ダメ」
音程が悪い⇒「ダメ」
というふうに。
この「ダメ」という評価がどこに向けられていたかというと「自分」です。
・音を外してしまう「自分」がダメ。
・音程が悪い「自分」がダメ。という評価をしていました。

その反面、「結果」ばかり意識しているので、
自分に無理のある奏法でとっさに「音をあてる」「音程を合わす」ということをしていました。
これは本番やリハーサルでは役に立つことがありますが、いってみれば緊急策のようなものです。
しかし、練習の時から「結果」だけで評価し、この緊急策をつかうことはどうでしょうか?
無理な奏法を何度も反復し、それが癖として身について、体を痛めてしまう可能性があります。
それにこういった練習の仕方はいまいち効果が得にくく、いつまでも自分の実力や技術に信頼を持てないのではないかと思います。



では、何を評価基準として練習していけばいいのでしょうか。
「自分がこうする/こうしたいと決めたプランを実行したかどうか」で判断してみると、どうでしょうか?

たとえば、練習が必要と思われる低い音から高い音への跳躍に出会ったとします。
いつも通り演奏すると上の音がうまくあたらず、下の音にはずれてしまいます。
そこで部分的な練習を始めます。
まず、その跳躍を演奏するためにどんなアイデアやプランがあるだろう?
考えたり、いままで教わってきたことを思い出せば、アイデアがいくつか出てくるかもしれませんね!


そこで、「出したい音をイメージしてみよう(ソルフェージュしよう)」というアイデアがおもいついたとします。
この段階ではそれでうまくいくかはわからないけど、このアイデアを実行します!


・・・結果は上の音があたらなかった、とします。
しかし、「音をイメージする」というプランは実行できました!
この実行したかどうかがとっても大切です。
音はあたらなかったけど、次のことがわかりました。


その跳躍を演奏するためには、「音をイメージする」というプラン以外にも何かする必要がある。
(これは、ひとつのプランを本気で実行したからこそわかる大事な情報です!)
また、音をイメージしていなかった時より、近い音が鳴ったり、あたりそうに感じたかもしれませんね。


では、「音をイメージする」というプランに加え、新たなプランを用意します。
「跳躍するときに、息をより多く吐いてみよう。」を実行してみます!


・・・結果は出したい音よりもさらに上の音にあたりました!
これも「外れた」と言ったりしますが、先ほどとは結果そのものが全然違います!
そして「息をより多く吐く」というプランを実行したからこそ生まれた結果です。
わかったことは、「息を多くする度合を減らしていいかもしれない」あるいは「アンブシュアを緩めてもいいかもしれない」ということです。。(もちろん上記以外のアイデアやプランはたくさんあります!)
そして、そのどちらかを実行します!


・・・練習していた跳躍がうまくいきました!!
こうした「プランを実行する」過程を踏まえ、「できた」という事実をしっかりと受け入れることもとっても大切です。


ひとつの例をとって説明してみましたが、このようにプランや意図を持って実行した結果は、音が外れてようがどうだろうが、良し悪しで評価するものではなく、次につなげれる一つの情報になります。
だから、演奏の「結果」を基準に評価するのではなく、「プランや意図を実行したかどうか」を基準とした方が効率的にうまくなっていけるんですね。
自分の技術への信頼も深まり、本番でも引き出しやすくなります。



練習が「ダメな自分をいじめて、変えようとする」作業から「自分の可能性に向かって冒険していく」作業に変わります。





森岡 尚之 / モリオカ ナオユキ
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