2013年11月11日月曜日

自分のために演奏する。

今日、中学生とレッスンをしている時、ふと考え事をしました。
「僕は中学生の頃、なぜトロンボーンに惹かれたのか。演奏することの何が幸せに感じるのか。」


理由はひとつではないと思います。
音楽を通しての出会いも、自分の音楽で人が何かを感じてくれることも、自分にとって大きな意味を持ち、その体験は本当に幸せなことです。
でも、自分にとってもっと根本的な原点がすっぽり抜け落ちていたことに気づきました。

それは、自分の奏でるトロンボーンの音に、自分自身がわくわくして楽しくて心地よくて仕方がなかった!!という体験です。
それがトロンボーンに魅了された一番最初のきっかけ。
当時どんな音だったかははっきり覚えてないけれど、単純に自分の吐いた息が音になること、だんだん出せる音や吹ける曲が増えていくことが、やたら嬉しかったんです!
誰よりも自分が自分の音を楽しんでいました。そして自分が楽しいと感じる音をだれかに聞いてもらうのもこの上ない喜びでした。




「もっと上手くなりたい」という欲求も、もともとは自分がもっとこんな音で吹きたい、こんな曲が吹けるようになりたい、という自分のための欲求でした。
それがいつからか
「自分の演奏に満足したり、楽しんでいてはいけない。だれかに聞いてもらったり認められるためにはもっと努力して上手くならなければいけない。」と考えるようになりました。

聞いてもらいたい/認めてもらいたいという欲求自体は自然なことですが、そのために「自分の演奏を楽しむこと」を犠牲にしてしまったのです。
この自己否定をモチベーションとした練習サイクルの代償はあまりにも大きなものでした。




この考えは高校~大学の間でじわじわと広がっていき、大学三回生の頃、完全に浸透していました。それからというもの、他人の評価に一喜一憂するだけで、演奏する楽しさや喜びを感じられることは明らかに減っていきました。
以前とは反対に、自分の演奏に対して否定的になり、自分の音が嫌いになってしまいました。
最後には自分の音を誰かに聞かれるのも、自分が聞くことも苦痛になってしまいました。




けれどそこまで演奏することに苦しみながらも、トロンボーンを続けていきたいと思えたのは、
「自分が、自分の演奏を楽しむ」という体験がそれほど自分にとって強烈に残っていたからです。
そんなとき、その頃自分が好んで聴いていたミュージシャンや演奏家にある共通点を見つけました。
それは、自分の歌を、演奏を、曲を、本当に愛おしそうに大切に奏でていたのです。
そんな人たちに魅せられ憧れている自分に初めて気がつきました。

今自分は、「自分の楽器から出ているリアルな音を聞くこと」から始めています。
良いか悪いかの評価をせずただ自分の音を聞くというのははじめ不思議な感覚がしました。嫌悪感はなく、なんだかちょっと心地いい。そして驚きました!今まで自己否定的な考えや先入観があったため本当の自分の音を聞いていなかったのです。
自分に協力的になって、少しずつ自分の音が好きになり始めています。
するともっとこんな音が出したい、うまくなりたいと再び思えるようになりました。
そうだ、自分のために演奏しよう。

自分が好きと思えるからこそ、だれかに聞いてもらいたいと思うのです。





森岡 尚之 / モリオカ ナオユキ
 トロンボーン&金管トレーナー/アレクサンダーテクニーク教師養成コース在籍
プロフィール
アレクサンダーテクニークとの出会い

レッスンのご依頼について