2014年8月9日土曜日

ルシア先生とのレッスン



アレクサンダーテクニークを学び始めて一年と少しが経ちました。

そのなかでの学びは、今の自分の音楽活動にとても役立っています。
中でも、とても嬉しいのが、楽器や音楽に対する興味・好奇心・意欲が自然に沸いてくるようになったことです。

というのも、僕は2年前、音楽大学を卒業するころ、音がまともに出なくなるまでの激しい不調に悩みました。リハーサルや本番で恥をかきたくない、失敗したくないという思いが強くなり、今までできていたことまでできなくなってしまうという悪循環を引き起こしました。
ちょうど大学を卒業する直前、演奏家としての道を歩みたいと思っていた時期だったので、大変ショックでした。

卒業して、「今までと同じ頑張り方では、これ以上の上達は望めないしとても楽器を続けられない」と感じたぼくは、しばらく楽器の練習を休むことを決意しました。

しかし、その決意とは反対に、楽器を練習しない自分を心の中で責め続けていました。
休むことを実行していたけれど、認められていなかったんです。


やがて、「練習しなきゃダメだぞ。」という心の声に突き動かされ、練習を再開するようになりました。
休んでいたことで、凝り固まっていた身体の緊張はいくらか緩和されていたので、最初の方は以前よりラクに音がなりますが、やがてまた身体が緊張し音が鳴らなくなる状態まで戻ってしまいました。


それから1年後、アレクサンダーテクニークと出会い、それ以降BODYCHANCE でレッスンを受け続けています。

自分の持つ様々な思考が、身体の緊張を引き起こしたり、また自由にしてくれることを体験しながら学び、実際に長く苦しんでいた不調からだんだんといい方向へ向かい始めました。

確かにいい方向へと向かってはいたのですが、不調になる以前の、気持ちよく吹けていたころのような、「演奏する気持ちよさ、心地よさ、楽しさ」を感じることがありませんでした…




今年の5月、来日していたアレクサンダーテクニーク教師ルシア・ウォーカー先生のクラスの中で聞いた言葉が印象に残りました。

「自然に湧き上がった衝動から生まれた動きは美しい。それは人が本当にやりたいことをやることが美しいということなのかもしれない。」


その言葉を聞いた僕は、「自分は本当に吹きたくて楽器を続けているんだろうか?」と疑問に思いました。
それは僕が「練習しなくちゃいけない」という思考の中で、楽器と向き合い続けてきたからです。

そこで、ルシア先生に、
「自分が楽器を吹きたいと思う衝動が沸いてくるのを待ってみたい。そのためにルシア先生のサポートを受けたい」ということを相談しました。

幸いに、ルシア先生のクラスは3日間続けてあるので、
「わかったわ。それは時間をかけて探究しましょう。3日間のいつでも、何か衝動が沸いてきたら声をかけて」と快く引き受けてくださいました。


いつもだったらクラスの中で楽器演奏をレッスンしてもらいますが、この日は吹きたいという衝動を待ちながら、他の人のレッスンを聴講していました。


クラスが終わってから、いいようのない不安に駆られました。
「この3日間、楽器を吹きたいとみじんも思わなかったらどうしよう。」
今まで練習しなきゃいけないという思考をモチベーションとしていたところが大きかったので、それがなくなった自分は楽器を吹きたいのかどうか…不安と悲しさがどっと押し寄せてきました。

三日目、ルシア先生のクラスの最後の日。
僕は、楽器を吹きたいという衝動が起こらなかったことを話しました。

「ちょっとここで、楽器を出してみない?吹くか吹かないかは決めなくていいから。」とルシア先生。

ルシア先生のサポートを受けながら、まるで初めてトロンボーンという楽器に出会うように、楽器を眺め、手に取り、重さを感じて、また細部から全体を眺めます。

ケースを開けて楽器を組み立てて、音を鳴らすまで、こんなに長い時間かけたことがないくらい、ゆっくりとトロンボーンを感じ、眺めました。


そして楽器を吹きたいと思っていないことを認めるのを恐れている自分に気がつき、涙が出てきました。


「手放すことができたら、その吹きたいという衝動はやがて帰ってくる」
ルシア先生のその言葉に励まされ、2年前にやろうとしてできなかった、「楽器を吹かなくても、練習しなくてもいいんだ。」ということを自分に許すことができました。


それからの一ヶ月間、生活のなかで様々な変化が起こりました!

クラシックやトロンボーン、吹奏楽の演奏が聴きたくなり、演奏会に足を運んだり、CDを購入したり。
また吹奏楽を演奏したくなって、地元の吹奏楽団に入団することになったりと、心から音楽をやりたいという衝動が起こり始めたのです。

そして楽器を演奏したいという衝動にいろんな種類があることに気がついたのです。

今日はこの曲を演奏したい。このコンチェルトにチャレンジしてみたい。こういうところをもっとうまくなりたいなどなど。

そうするとその衝動によって、演奏する曲や練習の内容は様々です。


今まで僕は、本番以外の日=練習=うまくならなきゃいけない時間と考えていました。
しかし、それではやがて疲れてしまいモチベーションは長続きしません。
それに楽器を続けているのは、演奏することが好きだからです。
本番でなくても、演奏することを楽しむ時間があっていいですよね!

そして、今日は楽器を吹かないでいいや!という選択肢があることも!

それに気がついたおかけで、音楽が自分のなかでどれだけ大切な存在かを、思い出すことができました。


アレクサンダーテクニークを学び始めるとき、ぼくの第一の目標は、心身ともに健やかにトロンボーンを演奏し続けることでした。
その目標がようやく実感となって現れ始めているように感じます。

そしてこれからも、続けていこうと思います。



◆プロフィール◆
 

森岡尚之 / もりおかなおゆき
 
大阪府高槻市出身。
大阪音楽大学トロンボーン専攻卒業。トロンボーンを今田孝一・呉信一各氏に師事。
2013年よりbodychance アレクサンダーテクニーク教師養成課程で学び、2015年8月ボディシンキングコーチ資格を取得。
宝塚歌劇オーケストラトロンボーン奏者/山下浩生氏の主催するトロンボーン合宿にてレッスンを行うほか、大阪で「トロンボーン奏者のための身体の使い方」1日セミナーを開催。また学校吹奏楽部への出張レッスン、音大生など音楽家との個人レッスン、アイディア音楽センターでレッスンを行っている。
bodychance認定ボディシンキングコーチ


グループレッスン予約受付中です。